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書道を嗜む人ならずとも一度はその名を聞いたことがある、書聖・王羲之の最高傑作『蘭亭序』。 「天下第一の行書」と称えられるこの作品には、1600年以上の時を超えて人々を魅了し続ける、ある「奇跡」と「罠」が隠されています。
今日は、その深すぎる世界を紐解いてみましょう。
1. 酔いが生んだ「二度と書けない」奇跡
西暦353年、春の麗らかな日。王羲之は名士たち41人と共に山陰の蘭亭に集まり、酒を酌み交わしながら詩を詠む雅な宴を開きました。この時、王羲之はほろ酔いの状態で、蚕の繭で作った紙とネズミの髭の筆を使い、一気に書き上げたのが『蘭亭序』です。
驚くべきことに、のちに王羲之が何度書き直そうとしても、この草稿以上の出来栄えにはならなかったと言われています。全くの無防備で自由な精神状態が、技術を超えた「神の領域」の筆致を生み出したのです。
2. 「之」の字、20回以上のバリエーション
『蘭亭序』の代名詞とも言えるトリビアが、文中に20回以上登場する「之」の字です。 実はこの「之」、一つとして同じ形がありません。 縦横無尽に変化し、前後の文字と呼応し合うその姿は、芸術における多様性と統一の究極の形とされています。
3. 初心者が『蘭亭序』から始めると「俗」になる?
ここが最も重要なポイントです。 『蘭亭序』はその名声ゆえに多くの人が手本にしますが、実は初心者がいきなり臨書するのは非常に危険だと言われています。

学生の蘭亭序臨書作品

蘭亭序の細部拡大
4. 上達の「正解」は24年かけた集字版にある
では、王羲之のスタイルを学ぶにはどうすればいいのか? そこで登場するのが『集王聖教序』です。
これは唐の太宗皇帝の命により、僧・懐仁(王羲之の末裔)が24年もの歳月をかけて王羲之の遺した書から一字ずつ集め、構成したものです。 『蘭亭序』が「自由すぎる草稿」であるのに対し、『聖教序』はルールが整っており、単独の文字として把握しやすいため、王羲之を学ぶ「正道」とされています。

学生の聖教序臨書作品
結び
高貴で気品あふれる『蘭亭序』は、いわば「仰ぎ見るべき至高の存在」です。 まずは『聖教序』で王羲之の「正しいフォーム」を学び、その後に『蘭亭序』の自由な精神に触れる……。そんなステップこそが、書道の奥深い楽しさを知る近道かもしれません。
💡 王羲之の「正しいフォーム」を極めるための最強の相棒
本編でご紹介した通り、王羲之の行書を学ぶ上で『集字聖教序』は、まさに「正道」と言える手本です。しかし、24年もの歳月をかけて集められた膨大な文字の中から、その一字一字に秘められた「美のルール」を独力で見出すのは容易ではありません。
そこで、深く学びたい方にぜひ手に取っていただきたいのが、関口研二先生の著書『王羲之 集字聖教序字典』です。
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