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2025-12-24

北宋書道の異端児、米芾。その「狂気」が現代まで照らし続ける理由

2025-12-23


宋 米芾『蜀素帖』 台北故宮博物院

 

北宋時代に「小さな唐辛子」と称されるほど刺激的で、型破りな天才がいました。その名は米芾(べいふつ)。書道の世界では誰もが知る偉人ですが、その私生活や性格は、驚くほど「尖った」エピソードで満ち溢れています。
今回のブログでは、そんな米芾の「狂気」と「愛すべき素顔」を、いくつかのエピソードからご紹介します。
 

1. 誰もが恐れた「伝説の絹」に筆を振るう


北宋の時代に、慶暦4年(1044年)に作られた非常に貴重な「蜀素(しょくそ)」という絹の巻物がありました。あまりに貴重だったため、持ち主の林希(りんき)の家に渡ってから約50年もの間、失敗を恐れて誰もそこに字を書こうとしませんでした。

しかし、元祐3年(1088年)、林希に誘われた米芾は違いました。「私が書こう!」と即答したのです。彼は迷うことなく筆を振るい、当時の旅行記や送別の詩など8首を書き上げました。これが現在、「中華十大伝世名帖」の一つとして語り継がれる『蜀素帖』の誕生の瞬間です。世間が「狂っている」と評する彼の大胆さが、歴史的傑作を生んだのです。
 
宋 米芾『蜀素帖』 台北故宮博物院
 

2. 天下無敵の「毒舌」と「米癲」というあだ名


米芾はその奔放な性格から、周囲に米癲(べいてん=狂った米氏)」と呼ばれていました。本人はその自覚がなかったようで、ある時、友人の蘇軾(そしょく)に「世間は私のことを狂っていると言うが、君はどう思う?」と尋ねました。すると蘇軾は「私は世間の意見に従うよ(=私もそう思う)」と答え、二人の仲の良さをうかがわせるやり取りを残しています。
 
彼の「狂気」は、他人の書に対する評価にも現れました。
• 蘇軾の字を「字を書いているのではなく、描いている」
• 黄庭堅の字を「なぞっている」
• 顔真卿の楷書を「どんよりとして俗っぽい」
• 柳公権の筆致を「わざとらしく、品格がない」
このように当時の名だたる書家たちを次々と批判しました。最終的には、聖人とされた「二王(王羲之・王献之)」の欠点をも克服し、自分こそが古今の書を集大成した「集古字」の完成者であると自負していたのです。
 

3. 奇石への愛と、度を越した潔癖症

 
米芾のこだわりは書道だけではありませんでした。彼は「奇石」を異常なほど愛し、気に入った石を見つけると、周囲の目も気にせず跪いて拝んだり、石を抱いて寝たりしたと言われています。
 
鏑木雲潭筆「米芾拝石図」 江戸時代
 
また、彼は極度の潔癖症でもありました。 常に侍女に水盆を持たせて手を洗わせるだけでなく、ある皇室の祭祀の際、祭服が汚れていると思い込んで激しく洗いすぎた結果、服の模様を消してしまい、免職処分を受けたこともあります。
 
潔癖症にまつわる最も有名な話は、彼が愛した「硯」にまつわるものです。ある日、友人の周仁熟が米芾の新しい硯を褒め、「墨の出具合はどうかな?」と言いながら、なんと自分の唾を硯に吐きかけて墨を磨り始めたのです。 潔癖症の米芾はショックのあまり気を失いそうになり、「汚れてしまったからもう使えない」と、その名品の硯をそのまま周仁熟に譲ってしまい、二度と受け取らなかったといいます。
 
 
米芾は、周囲に合わせることなく、自分の感性と美意識に忠実に生きた人物でした。その「狂気」とも取れるこだわりがあったからこそ、千年の時を超えて愛される唯一無二の書が生まれたのかもしれません。
彼の人生を振り返ると、「型を破るには、まず自分を信じ抜く狂気が必要である」ということを教えてくれているようです。
米芾の魅力は、まるで激辛の唐辛子のよう。一度その刺激に触れると、忘れられない深い味わいがあるのです。
 

 


 

米芾(1052-1108)、字は元章、湖北襄陽の人(現在の湖北省襄陽市)、蔡襄と蘇軾、黄庭堅とともに北宋四大書家とされる。「蜀素帖」は米芾が応林希(1068-1100に活動)の求めに応じて、貴重な蜀素(絹布)に八首の詩を書いた作品である。布地に織り込まれた烏絲欄の枠線内に書かれてはいるが、舞い飛ぶように伸びやかな筆遣いは実に生き生きとして、形式に捉われている箇所は微塵もない。董其昌はこの作品を「全力で象を捉える獅子のようだ」と絶賛している。

董其昌は翰林院に籍を置いていた頃に「蜀素帖」の模本を手に入れていた。その後、万暦甲辰年(1604)に所蔵の名跡数点と交換して、徽州の古董商呉廷からこの巻を入手したが、乙卯(1615)頃に友人の陳巘の手に渡っている。79歳の董其昌は都で再びこの巻を目にした際、深い感慨を覚えたという。

 


 

 

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